2019年4月16日火曜日

やらない夫のさいきょースカイリム

やらない夫のさいきょースカイリム」はゲーム「The Elder Scrolls V: Skyrim」を原作とした中編作品。
作者は◆3V3NI8LmSAさん。完結済み。

スカイリムの三大ギルドクエストの一つである同胞団クエストをベースにしたスレ。
基本的なストーリーラインは原作通りでありつつ、様々なスレ独自の肉付けをしている。素直な作りで、お手本のような二次創作。
キャラクター造形も癖がなく、少年マンガのような展開と分かりやすさが魅力。

あらすじ:

幼少期に狼に襲われたやらない夫は、最強を名乗るノルドの男性に助けられる。
成長したやらない夫は、最強を目指しスカイリムで名声高い戦士ギルドの同胞団に参加する。
だが、同胞団にはある秘密があった。さらに同胞団の秘密を巡って、対立組織との抗争が激化していく。

解説:

同胞団がデイドラロードのハーシーンから授かった祝福「人狼化」を巡る物語。
同胞団の幹部会「サークル」のメンバーは皆、ハーシーンの祝福を受け、ウェアウルフとしての力を持っている。
人狼化することで強大な力を振るうことができる反面、死後はハーシーンの領域であるハンティンググラウンドへ行くことを余儀なくされる。
原作ゲームでは同胞団クエストの進行途中に人狼化を強制されるが、やらない夫は人狼病による力を真っ向から否定し、己の肉体一つで最後まで戦い抜く。

感想:

これまで読んだスカイリムスレの中で、最も原作ゲームとの乖離が少なかった作品。

ストーリーラインが原作通りなのもあるが、改変の仕方がうまいのだと思う。

また原作の同胞団クエストは話としては薄味なのだが、主人公のやらない夫と同胞団の因縁や、同胞団の祝福に関する部分の掘り下げが、きっちり話を盛り上げてくれる。


またジョジョ風のナレーションによる解説は、勢いがありつつも必要な内容を過不足なく読者に提示してくれる(説明し過ぎないというのは案外難しい)。


恋愛要素はほぼないがヒロインの杏子がかわいい。ハーシーンちゃんもかわいい。


やらない夫は熱く強い主人公だ。彼の言う最強は「誰かを守れること」であり、「弱者を守る盾」である同胞団の理念そのものである。


最後に:

ジャスト1スレ分の分量の作品なので、読むのに時間がかからない。
スカイリムに興味がある人や少年マンガ的な話が読みたい人は是非。

まとめサイトURL:

嗚呼!やる夫道 

http://gokumonan.blog87.fc2.com/blog-entry-4466.html

2019年4月14日日曜日

猫のスカイリム

猫のスカイリム」はゲーム「The Elder Scrolls V: Skyrim」を原作とした長編作品。
作者は◆20L.ujnjAgさん。完結済み。

やる夫系のThe Elder Scrollsシリーズ原作作品において、最も有名だと思われる作品。
実際、素晴らしい作品であり、あちらこちらでオススメされている。
とはいえ、2012年から2013年にかけて連載されていた作品であり、完結してからだいぶ時間が経っているため、改めて紹介できればと思った次第。


あらすじ:

本作の主人公はモナーキンことモナー(AA元:2ch派生)である。

従来人間(種族不明)だったが、ある日カジート(猫型獣人)に姿を変えられてしまった彼は、家族からも見捨てられ、スカイリムを放浪し、スリや盗みで食いつなぐ根無し草であった。
そんな彼が偶然出会ったインデックス(AA元:とある魔術の禁書目録)を助け、ファルクリースに同行した際に、デイドラロードの一柱であるハーシーンと係わることになる。
この一件を皮切りに、モナーキンは次々とデイドラロードたち絡みの事件に巻き込まれていく。


解説:

スカイリムは、邪竜アルドゥインの復活と打倒がメインストーリーと位置付けられているが、それ以外にも多数のサブクエストが存在する。

その一つがデイドラクエストと呼ばれるクエスト群であり、デイドラロード(邪神)にまつわる事件を解決していく内容になっている。
本作はこのデイドラクエストにモナーキンが挑む(挑まされる)形で話が進んでいく。このデイドラクエストはゲームに準拠したものもあるが、大半は本作のオリジナルの内容である。
作中での組織の状況も、スカイリム本編とは異なるケースが多い(盗賊ギルド・闇の一党が壊滅済み等)。また細かい設定なども原作ゲームと異なる点が多い(ホワイトランにディベラの神父がいる等)。
「Skyrim」だけでなく前作「The Elder Scrolls IV: Oblivion」絡みの設定や話も多々ある。


感想:

この作品には「個人としての善性の追求と理不尽に屈しない勇気」が全編を通して貫かれている。


モナーキンには常に災難が降りかかる。
決してすべてが回避不能なものではなかったし、より楽な道もあった。
それでもモナーキンは、災いに立ち向かい、困難な道を選ぶ。
それは多くの場合、見ず知らずの人々や出会ったばかりの人々のためだ。

災難に打ち克った時、モナーキンに見返りはほとんどない。
デイドラロードからの祝福(もしくは呪い)が与えられ、力は強化されていくが、彼はそのことに価値を見出していない。
社会的な地位や金銭を得られるケースの方が稀だ。

そもそもデイドラロードは不死にして不滅の存在であり、どれだけ強化されようが定命の者(寿命がある存在)が打倒することはできない。
絶対的な力を盾にして、デイドラたちは突然に一方的に理不尽に無理難題を課してくる。
それでもモナーキンは常にしぶとくタフに立ち向かっていくのだ。
それは時に、自分の命を守るためであり、誰かを救うためでもある。

元々モナーキンは盗みで食いつなぐだけの小物であり、最初から勇者・英雄だったわけではない。実際、卑小な己を嫌悪していた彼は、理想の自分を必死に演じることで、人々を助けていたと吐露するシーンもある。

しかし、モナーキンが実際に身の危険を冒して人々を助けてきたのは間違いない事実であり、そうした行いができる彼は間違いなくヒーローだ。


創作技術的な話:

この作品で感心したのが、物語に不必要な設定をほとんど提示しないという点である。


The Elder Scrollsシリーズは詳細かつ膨大な設定があるゲームだ。
設定の付与や解説は楽しいが、キリがないのも事実である。とはいえ、基本的な設定ぐらいは提示したいというのは二次創作者の欲としてあると思う。

その点、本作はバッサリとカットしている。
これは原作ゲームをやっていない人にとっては取っつきやすさに繋がると思う。

例えば、スカイリムには様々な人種が存在するのだが、本作に登場するキャラクターにはほとんど人種が割り振られていない。主人公のモナーキンが人間だった時の人種やヒロインのインデックスの人種についても提示されない。
これは本作が「ノルドだから助ける。アルトマー(ハイエルフ)だから助けない」といった話ではないからだろう。より普遍的な善をモナーキンは実行する存在なのだ。

また本作では帝国(ミード朝)と反乱軍(ストームクローク)が内戦中であるが、この内戦の背景(帝国とアルドメリ自治領との間に起きた大戦や白金条約によるタロス崇拝の禁止)は全く語られない。
こちらは本作において内戦は舞台装置の一つにしか過ぎず、内戦が起きているというだけで十分だからだろう。内戦で疲弊した両陣営が起こした危機をモナーキンは止めるが、内戦を終結させるために行動するわけではない。
モナーキンは政治的な主張とは無縁であり、どこまでも一人の人間として動く。

最後に:
この作品の魅力はAAや伏線の回収に大胆な構成の組み換え、セリフ回しのセンスなど枚挙に暇がないが、是非読んで自分で感じてほしい。
読後感も非常にいい。
希望と勇気を与えてくれる物語だ。


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